2002年 7月19日付 朝日新聞より転載
地上波デジタル、全国で受信可能になるのは2009年度
 

 総務省は19日、次世代の放送の主役となる地上波デジタル放送が全国くまなく受信できるようになるのは、2009年度になるとの見通しを発表した。関東、中京、近畿の3大広域全域で放送が行き届くのは2006年度中としており、いずれも当初計画より3年遅れとなる。現行の地上波アナログ放送は11年に打ち切りを予定。視聴者への告知期間が短くなることや受信機器の普及の遅れが見込まれるため、将来、アナログ打ち切り延期など計画全体の見直しを迫られる可能性が強まっている。

 総務省の公式計画では、地上波デジタル開始は3大広域圏が03年末、その他地域が06年末だった。しかし、同省が19日に明らかにした見直し案では、03年末段階での3大圏の受信地域は東京都港区、愛知県瀬戸市、大阪府と奈良県境の生駒山にそれぞれ立地する親局から一定の範囲内にとどまり、04年末時点でも受信可能世帯は全体の7〜8割の1500万世帯にとどまるとしている。

 一方、デジタル化の最大の課題となっていたアナログ放送との混信対策費について、同省と放送業界がつくる全国地上デジタル放送推進協議会(会長・北川信テレビ新潟社長)は19日、全国で約1800億円かかるとの試算を発表した。主に瀬戸内海、九州・有明海に隣接する混信地域でのアンテナの交換、再調整費用にあてるという。

 同対策費について、片山虎之助総務相は同日、全額国費でまかなう方向で検討する方針を示した。ただ、国の予算では約730億円しか見込まれておらず、2.5倍に膨れあがった対策費については財務省との予算折衝が必要になる。

 総務省は携帯電話事業者らから徴収し、年間500億円程度の収入がある電波利用料から、7年間で毎年200億〜300億円を拠出したい考え。ただ、携帯事業者は反発しており、調整は難航しそうだ。

2002年 4月26日付 毎日新聞より転載
進まない地上波テレビのデジタル化
放送業界と家電業界が消極的な理由
 

 総務省が旗振り役となって、テレビ放送の“地上波デジタル化移行計画”が進められている。2003年には、東京・名古屋・大阪の3大都市圏でデジタル化が始まり、2006年には地方局、さらに2011年には現在のアナログ放送が全面停止される予定だ。テレビがデジタル化されれば、多チャンネル化やデータ放送、高画質放送、インタラクティブ番組など、放送自体の多様化も進む。しかし、先行するBS(放送衛星)デジタル放送の不振や、テレビ局側のコスト負担の大きさへの不満、準備作業の遅れが響き、実際には来年から地上波デジタル放送が実現するかどうか、まだ先の見えない状況だ。視聴者の立場からすれば、「いつテレビやアンテナを買い替えなければならないの?」と聞きたいものの、誰に言えばいいのかも分からない状態。地上波テレビのデジタル化が進まない現状を考えてみた。

■ローカル局の反対で先送りとなる“アナアナ変換”

 地上波デジタル化の見直し論が出てきたのは2001年末だった。放送業界に詳しい日本総研の西正・メディア研究センター所長によると「デジタル化に不可欠な“アナアナ変換”の費用が、予定されていた727億円の約3倍に当たる2000億円以上に膨らむ見通しが明らかになったため」だという。

 アナアナ変換とは、あらかじめ現行のアナログ放送の周波数を別の周波数に移し、デジタル放送用の周波数帯を確保する作業のことで、現状のアナログ放送とデジタル放送の電波を近い周波数帯で過密に混在させると、混信の可能性があるため必要な措置だという。アナログからアナログへの変換なのでこう呼ばれるが、周波数が変わるということは、テレビ受像機のチャンネル設定が変わるということ。また、放送局側でも中継局新設費用などの負担もある。これは、2001年度から実施される予定だったが、現在のところは先送り状態になっている。

 これは、デジタル化の認知度が低い視聴者からの非難がテレビ局に集中することは目に見えており、さらに「デジタル導入後の混信などを防ぐためには、当初よりもきめ細かい対応をしなければいけない」(西正所長)ことが分かったため、増加したコストの負担をいやがるローカル局各社が、こぞってアナアナ変換に反対しているためだ。

■家電メーカーは様子見

 アナアナ変換が進まなければ、スムーズなデジタル導入が難しくなる。片山虎之助総務相は最近の会見で「2003年に3大都市圏、2006年にそのほかの県域で始めてもらう方針は変えない」と述べたが、担当する総務省幹部は「実際には、ある地域をまず前倒しで行うとか、そうした時期のばらつきはありえる」と認めている。

 しかし、そうなると今度はテレビやチューナー、アンテナを販売したい家電メーカーの販売戦略が複雑になり過ぎ、さまざまなコストがかさむことになる。家電メーカーは「デジタルテレビとアンテナの開発や製品化は進めているが、販売戦略などはまだ白紙」(大手メーカー幹部)と様子見の状態だが、腰が引け気味であることは隠せない。

 その理由の1つは、2000年12月に鳴り物入りで始まったBSデジタルの不人気にある。業界では3年間で1000万台を売る計画だったが、今年2月末時点では、ケーブルテレビ視聴を除くとチューナーやBS内臓テレビを含めて約110万台程度に留まっているという。これでは地上波デジタル放送向けの機器で果敢にリスクを取りにくいだろう。2003年のデジタルテレビ発売がいつの時期になるのか、業界側も手探り状態というのが実情なのだ。

■国もイニシアティブを取りきれない状況

 在京のテレビ局はすでに東京タワーに専用アンテナを取り付けるなど、準備に入っているが、その一方で、「デジタル化は国の政策として責任を持ってやってほしい」(NHK首脳)と、ローカル局との間でもめているアナアナ変換費用を国が負担するよう求める声もあがっている。キー局としてはローカル局にコスト負担せよとは言えないが、事態を長引かせたくもないのだ。

 2011年にアナログ放送が全面停止となるまでは、放送局はデジタルと同じ番組をアナログで並行して放送する義務(サイマル放送)がある。これは視聴者のための移行措置で、アナログ放送中止までは従来のテレビで番組を見ることができるが、同じものを放送するのだからテレビ局にとってはコスト増となる。デジタル化への完全移行が遅れサイマル放送が長引けば、テレビ局のコスト負担も続くことになる。

 もちろんそうなれば、家電メーカーもアナログテレビとデジタルテレビの2本の商品ラインをかかえ続けることになり、販売管理コストがかさむことになる。デジタルテレビ製品が売れてくれれば市場の新たな開拓と拡大につながるだろうが、ローカル局の反対が長引けば、サイマル放送の期間も長引く。視聴者サイドのデジタルテレビへの認知度が低ければ、やはり移行が遅れ、サイマル放送期間が長引く。サイマルが続いている限り、アナログテレビ販売を中止する時期の判断は微妙なものとなるだろう。「それならいっそ、デジタル放送開始自体が遅れてくれても構わない」(大手家電メーカー首脳)という本音が飛び出すのも分からなくはない。

 コスト負担がくびきになって、なかなかデジタル移行は進まない。しかし移行期間が長引けばさらなるコスト増は目に見えている。コストのジレンマのはざまで、身動きがとれないテレビ局や家電メーカーにとって、まだ誕生していない日本のデジタル放送市場はあまり魅力ではないようだ。まして視聴者にとっては、見たこともないデジタル放送を魅力的に感じる理由はありそうもない。ロードマップを示した総務省が必死に進めるデジタル化だが、いまの状況では弾みがつく材料が見当たらない、という状況にあるのだ。

 

2002年 4月12日付 朝日新聞より転載
地上波デジタル放送の本格開始、2005年に延期
 

 総務省と放送業界が次世代の放送の主役となる地上波デジタル放送の本格的なスタート時期を事実上1〜2年延期し、2005年からとすることで基本合意したことが11日、明らかになった。開始時期と設定していた2003年末には、東京都区部での放送はNHK総合の1チャンネルのみで、民放各社は微弱な試験波レベルにとどめる。

 最大市場の首都圏でのスタートの遅れで、現行アナログ放送を終了してデジタル放送に全面移行する、としている2011年の期限延期も迫られる可能性がある。家電業界が来年末から本格販売を見込んでいたデジタル受信機、デジタルテレビの販売計画にも大きな影響が出そうだ。

 修正計画によると、2003年12月ごろに首都圏で地上波デジタル放送が受信できるのは、NHK総合が東京都港区の東京タワーの親局から10キロ圏内(環状7号線の内側地域)の数百万世帯。民放5局は東京・多摩地区での混信解消のめどが立たず、東京タワーから1キロ圏への微弱電波を出すだけとなる見通し。東京都区部をカバーする全局による本格放送は2005年以降にずれ込む。

 一方、近畿圏では大阪府と奈良県境の生駒山を中心とする地域でNHK総合と民放数局を数百万世帯に、中京圏では愛知県瀬戸市から名古屋市にかけての約百万世帯を対象にNHK、民放の全チャンネルの放送を始める。

 ただ、デジタル放送の普及にはハイビジョン向けに制作する番組をどれだけ供給できるかがカギを握るため、制作能力のある東京の民放キー局の本格参入が遅れれば、近畿、中京でのデジタル化普及にも影響が及ぶ可能性が高い。

 従来案では、2003年末には東京、大阪、名古屋の都市部で全チャンネル放送を始め、2006年に地方中心都市、遅くとも2011年までに全国全域で受信できる計画だった。しかし、計画の実現には、2011年まで全国で並行して放送を続けるアナログ放送との混信解消が課題。その対策が必要な地域が当初想定より多く、デジタル放送の拡大計画を大幅に縮小せざるをえなくなった。地上波デジタルで使う周波数帯域は、現行アナログ放送で使っている帯域(1〜62チャンネル)を整理して空き帯域を作る計画。デジタル放送の対象地域を拡大する際、同じ帯域がアナログ放送で使用されているままデジタル波を流すと混信する。

 現行計画では、現在約1億台普及しているテレビ受像機は2011年以降にデジタル受信チューナーを設置しないと地上波放送を受信できなくなる。家電業界では、テレビの買い替えや放送設備の切り替えで今後10年間で総額40兆円規模の需要が生まれると期待しており、業界団体は従来通りの計画実施を総務省に求めている。

 

2001年12月29日付 電波新聞より転載
地上波デジタル放送 費用膨らみ計画不透明に
 

衛星放送に続き、地上波のテレビ放送をデジタル化する計画を予定通り実施できるかどうか、不透明感が増している。電波が込み合っている瀬戸内海周辺などデジタル転換が困難な地域が当初予想より多く、難視聴対策などの費用が大幅に膨らむためだ。
 もともと受け身だった放送業界は、費用増に伴う負担を拒否する姿勢。計画を主導する総務省は放送開始を東京、名古屋、大阪で2003年、全国で2006年との予定を変えていないが、予定通りの開始は困難との見方が強まっている。

 

2001年2月26日付 電波新聞より転載
地上デジタル放送首都圏用電波塔 2006年までは東京タワーを暫定使用
 

2003年からはじまる地上デジタル放送の首都圏をカバーする電波塔は、2006年まで東京タワーを暫定的に使用する線で準備が進んでいる。新タワーを新たに建設しては工事期間の関係から放送開始に間に合わないため。東京タワーを運営する日本電波塔では、現在の東京タワーの展望台に送信用スペースを確保し、放送に備えることで準備している。ただ、2006年以降についてはそのまま東京タワーを使用するのか、新タワーに移行するのか、といった調整が引き続きNHK、民放キー局5社などの関係者で検討していくという。
 地上デジタル放送の新タワー構想がさいたまタワー、新宿タワー、多摩タワー、新東京タワー、秋葉原タワーなど相次いで浮上した背景には首都県全域に電波を送信するためには、現在の東京タワー(333m)では高さが不十分とされていたため。
 特に地上デジタル放送においてはメディアがこれまでのテレビだけでなく、次世代携帯電話システム(IMT-2000)などマルチメディアへの対応も配慮しなければならない。
 NHK、民放キー局5社は、これまで技術担当レベルで技術的な検討を重ね、これをもとに電波塔の選定作業を進めてきたが、建設のコストおよび工期、各放送局からの距離、アンテナの方向転換、中継設備の設置数、航空法の高度制限などを総合的に検討してきた結果、最終調整が難航。一方では東京タワーの使用についても検討。工事期間の関係からも新電波塔での2003年からの放送開始を断念し、東京タワーを暫定的に使用することで合意したもようだ。
 東京タワーを運営する日本電波塔では、デジタル放送タワーとしての役割を担えなければ経営存続も危ぶまれる立場。現在の収入は放送事業者からのアンテナ使用料と観光だが、海外を含めて観光の分散化が影響し、観光収入の比率は40%強に低下しているという。
 2011年の現在のアナログ放送終了まではその役割を担わなければならないが、2006年をメドに新電波塔にデジタル放送が移行することになると経営的に厳しくなる。そのため、同社は暫定期間以降についてもデジタル放送タワーとしての機能を担いたい考えだ。
 一方、新電波塔構想そのものの検討は引き続き行われる。2003年から2006年の期間は東京タワーを使用する方向で固まったことから、結果的に新電波塔構想が先延ばしになったこともあり、これまでの案にとどまらず新たなデジタル放送タワー構想が浮上することも十分に考えられる。

 

1999年1月19日付 電波新聞より転載
地上波デジタルTVへのチャンネル変更 1,000万世帯に影響
  地上波デジタルTVへのチャンネル変更 1,000万世帯に影響
 郵政相の品川万里・放送行政局長は18日の記者会見で、2000年から試験放送が始まる地上波テレビのデジタル化に伴い、現在アナログで放送中の周波数をデジタル放送に明け渡すため、2010年までの10年間に全国1,000万世帯のテレビのチャンネルを変更しなければならないとの試算結果を明らかにし、影響が広範囲に渡ることを初めて認めた。
 郵政省は昨年末、影響のある世帯数を「220万を超える」とのみ公表したが、「その後調べた結果、1,000万世帯とわかった」と、意図的に小さな数字を発表したとの疑いを否定した。
 今後、NHKと民放の専門家による委員会を月内にも設置し、影響を1,000万世帯より少なく抑える方向で、チャンネル計画を練り直すという。
 変更のためには、各家庭のテレビのチャンネル設定を変えるほか、アンテナを買い換えなくてはならない場合もある。